「サン・ミッシェル広場の気持ちのいいカフェ」は移動祝祭日の第一章。秋を過ぎたある日、ヘミングウェイはカフェで書き物をする為に、ホテルの最上階の部屋を借りていたカルディナル・ルモワーヌ通りからサン・ミッシェル広場のカフェへ向かう。秋が過ぎ冬のパリが始まろうとするパリ。どこか哀愁を帯びながらも、暖炉の火のような温もりが感じられるヘミングウェイのパリの描写。この第一章は若き日の貧しいながらも幸福感に満ちたヘミングウェイのフィルターを通してみるパリは美しく、あの時代のパリがこだまするように温かな光を放っています。
ヘミングウェイが歩いたこの道は今どのようになっているのでしょうか。歩いてみることにしましょう。
ムフタール通り カルディナル・ルモワーヌ通り
ヘミングウェイがパリに暮らした20年代。ムフタール通りは低所得者が集まる場所でした。「あの狭い、ごみごみした、活気に満ちた市場通り」と移動祝祭日の中で表現してています。現在はラクレットやチーズフォンデュが安く食べれる学生向けのレストランやバーが立ち並び、毎夜お祭り騒ぎのよう。パリの中でも活気溢れる通りです。また5区の胃袋ともいわれるように、市場が毎日並び、新鮮な食材を求める住民で賑わっています。
コントルスカルプ広場
「ムフタール通りの汚物溜めのようなものだった」とコントルスカルプ広場を酷評し、特にカフェ・デ・ザマトゥールは「うらぶれた、手入れのお粗末なカフェ」「薄汚れた体の発する臭いや酒酔いに特有のすえた臭いがいやで、私はそこには極力近づかないようにしていた」と、否定的な言葉で表現しています。
現在コントルスカルプ広場にはカフェ・デ・ザマトゥールは存在せず、ヘミングウェイが記したような場末のようなカフェはありません。広場の中央には緑が溢れ、ムフタール通りの気持ちのよい広場へと変貌し、夏には広場のカフェのテラスで都会の夏を楽しむ人で溢れかえっています。
カルディナル・ルモワーヌ通りのヘミングウェイの仕事場
ヘミングウェイはカルディナル・ルモワーヌ通りのホテルの最上階に仕事場を借りていました。このホテルはフランスの詩人ヴェルレーヌが息を引き取ったホテルでもあるのです。今はヴェルレーヌという名のレストランが一階にあり、文学好きの観光客で賑わっています。
パンテオン広場
カルディナル・ルモワーヌ通りを下り、アンリ4世校とサン・テティエンヌ・デュ・モン教会の前を過ぎるとパンテオン広場に辿り着く。
サンミッシェル広場
ヘミングウェイの記実とは違い、現在サンミッシェル広場は観光地化され、いつ訪れても人で溢れかえっています。かつて存在していた、サンミッシェルの気持ちのいいカフェは姿を消し、今は観光客相手にしたカフェが建ち並び、決して感じの良いカフェがある場所とは言えません。へミングウェイが描写したサンミッシェル広場のカフェの面影はどこにも見当たらないのです。大都会パリは時間の経過とともにその姿を変え、改めて時の移り変わりというものをこの広場に来ると感じさせられました。