池波正太郎とパリ 2 ラ・クーポールとパリのソワレ


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池波正太郎はパリ滞在中にモンパルナスにある老舗のブラッスリー「ラ・クーポール」にもたびたび足を運んでいる。「ラ・クーポール」はモダンエイジの1927年に創業を開始した。そのオープニングパーティには2500人の招待客が招かれ、1500本ものシャンパンやワインが一晩に開けられた伝説の夜として現在も語り継がれている。「ラ・クーポール」ピカソ、藤田嗣治やジャン・コクトー等の画家から、戦後のサルトルやボーヴォワール等の作家達が常連で、「カフェ・ド・フルール」や「レ・ドゥ・マゴ」と同様に、戦前から戦後にかけてのパリの文化を象徴するカフェのひとつである。

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「ラ・クーポール」に一歩足を踏み入れると、その天井の高さ、ひろびろとした店内に圧倒される。1000平方メートルの敷地に、300席が確保されている。オレンジ色のライトが「ラ・クーポール」の華やかさを一段と際立たせている。広大な店内にはエコールドパリの芸術家によって装飾された33本の柱が立ち、店内の中央にはルイ・デレプレの「大地の像」があり、丸天井は華やかに装飾されている。開放された雰囲気と言えばいいのだろうか、1920年代当時にタイムスリップしたように、どこかあの自由で狂気であったベルエポック、その残り香が今でもここには漂っているようだ。

池波氏は「あるシネマディクトの旅」の中で、「ラ・クーポール」をこう評している。

天井が高く、ひろびろとした店内の、オレンジ色の明るい灯の中で、白服の給仕が忙しげにはたらくのを、黒いスーツの監督がみまもっている。客との間に小さなトラブルが起きたりすると、給仕が監督のところへ飛んで来る。すると監督は客のところへ行き、たちまちに物なれた様子で、トラブルをさばいてしまう。そうしたときの彼らの表情、仕ぐさなどは、いかにもドラマチックで、フランス映画の一齣を観ているようだった。p65

池波氏の指摘するように、「ラ・クーポール」の驚くべき点は給仕のその仕事ぶりにもみられる。給仕はお客と近すぎず遠すぎずといった距離を保っている。普段は気配を消しているのだが、お客が給仕を必要とあれば瞬く間に要望に応え、神経を研ぎすまし常にお客に気を配っているのだ。ここではパリ随一のギャルソンの給仕を受けることが出来る。

 「ラ・クーポール」の料理の味は、平均的で、とりたててどうのというわけではないけれども、店の雰囲気がよいものだから、料理までうまく食べられるということになってしまう。」P65 

池波氏がいかに気持ちよくこのブラッスリーで夕べを過ごした事が目に浮かぶようだ。「ラ・クーポール」はパリの中でも今も古き良きパリが感じられる場所。いつまでもこの空気感を保ち続けて欲しいと願うばかりだ。

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